2010年4月12日

テンプル大学(米国ペンシルベニア州フィラデルフィア/総長アン・ウィーバー・ハート、日本校:東京都港区/学長ブルース・ストロナク)は現在、2006年に就任したハート総長のもと、積極的なグローバル化プランを推進している。2009年春に発表された5ヵ年の中期経営計画では、4本柱の1つとして「Global Commitment」を掲げ、グローバル化への対応を約束した。この方針のもと昨年11月末、国際化推進担当シニア・バイスプロボスト(副総長補佐)に戴海龍(ダイ・ハイラン)氏が任命された。

グローバル化戦略ハイライト(2010年3月現在)

  • 43カ国112大学との提携(2006年以降5割増)。さらに3カ国20大学と交渉中。
  • 2010年1月、学生募集オフィスを中国・北京に開設。次は上海、さらにインドを目指す。
  • テンプル本校の外国人留学生は約4%。これを大幅に増加させる。
  • 重要性が高まる日本校(1982年開校)やローマ校(1966年開校)でコース増設を予定。
  • 国際諮問評議会の設置やファカルティ・アンバサダーの任命で、国際化に教員を巻き込む。

テンプル大学のグローバル化の現状と今後の戦略について、戴氏のインタビューを紹介する(米国本校の広報担当によるインタビュー抄訳)。

―国際化推進室の活動が目覚しい。
新しい提携が毎月のように行われている。アジアでは、台湾の12大学、韓国の3大学と提携を結び、中国では現在3大学だが今後さらに多くの正式提携を見込んでいる。また、ヨーロッパやアフリカでも、ルーマニアやナイジェリアで新しい案件が進行中だ。今朝はスウェーデンのランド大学の方と会った。中東ではコーンバーグ歯科大学のイズメル学長が、クウェート政府と新たな協定を結ぶために支援してくれている。

―現在、テンプル大学の海外提携はいくつあるか。
現在43カ国112大学との提携があり、さらに他3カ国で20の案件が進行中だ。ハート総長が2006年に就任してから、テンプル大学の国際提携は50%も増えた。しかし、我々のゴールはただ協定書にサインするだけではない。学生や教員の交流、共同研究、留学、そして画期的なデュアルディグリー・プログラム(3+2年の合計5年で学士と修士を取得する制度)などを通じ、外部との人の出入りを促進するために、これらの提携を活用していきたい。もっと多くのテンプル大生や教員を世界に送り出し、さらに多くの留学生を受け入れる。これが国際化推進室の方針の根幹だ。

―グローバル化は、総長も中期経営計画でも最優先事項のひとつに掲げているが、学生たちにとっての利点は。
世界を体験し理解することは、教育にとって必要不可欠だ。異文化から学ぶことはたくさんある。たとえば、先般の(米国の)医療保険改革の問題では、どちらの陣営もヨーロッパの医療保険システムを引き合いに出していた。これが社会福祉であっても安全保障であっても芸術であっても、もし学生がヨーロッパで学べば、新しいものの見方や解決方法を知ることができる。一方、競争上の必要もある。今日の卒業生が飛び込もうとしている世界は、私の世代とは大きく違う。アメリカはもはや世界の中心ではないし、ノウハウを持つ唯一の国でもない。テンプルの卒業生は、世界に通用する競争力を持たねばならない。アジアやヨーロッパそして世界の若者と競うことができる力を、学生に身につけさせること。これは教育者としての我々の責務だ。

―テンプル大学の国際化進展については満足しているか。
高等教育の国際化において、テンプル大学はリーダーであり続けてきた。アジアには日本校、ヨーロッパにはローマ校という、海外分校の草分けともいえる二校を運営している。両校とも他に類を見ない存在であり、テンプルの誇りだ。また、外国ですばらしい連携関係を築いてきた教員も数多くいる。しかし、テンプルは規模が大きく部門が分かれているので、アイデアや資源を共有するためのよりよい仕組みが必要だ。外国とのつながりを持つ教員の多くが、その同じ国で活動しているテンプルの仲間がいることを知らない。我々は、教員同士の共同研究を強力に手助けしていきたい。留学生受け入れやテンプル大生の海外派遣については、まだまだ拡大の余地がある。外国人留学生はわずか4%だが、これが南カリフォルニア大学なら30%(7,000人以上)だ。テンプルからの派遣留学生はそこそこの数で、3年次に留学する学生の割合は約6%。しかし、ペンシルベニア州立大学では12%だから、我々ももっと増やせるはずだ。

―留学生をもっと呼び込むためには。
留学生誘致はビッグビジネスだ。この職務に就く前、私は中国に行き、そこで外国大学がどのように留学生を募集しているのか学んだ。代理店と出来高契約している大学もあったが、そのやり方は我々にはしっくりこなかった。そこで我々はテンプルのブランドを打ち出し、強みをアピールするため、自ら学生募集の拠点を作る戦略を決定したのだ。まずは中国でテストするため、北京オフィスを2010年1月1日に開設した。このオフィスが募集した学生は今秋から入学する予定だ。この先はおそらく出願が増えるだろう。もし北京が成功したら、上海に二番目のオフィスを開く予定。その次のターゲットはインドだ。

―テンプルからの派遣留学生を増やすことの意義はわかるが、テンプルにくる留学生が増えるとなぜ大学にとって良いのか。
グローバル化の進む現代、異文化を知り、他国における問題解決の方法を学ぶことは、もはや任意ではなく必須だ。テレビを見たり講義を聴くだけで世界を把握することはできない。理解を深めるためには、違う文化を持つ人々の中で生活すべきだ。その意味では、すべてのテンプル大生に留学させるのが理想だろう。しかし、実際に全員を世界に送り出すことが不可能だとしたら、テンプルの中に世界を運んでくる必要がある。また実益面での意味もある。外国人留学生は、お金を払って米国大学に勉強しにくる。テンプルでは彼らは州外住民と同じ学費を支払う※。ベビーブーム世代の子供たちが大学入学年齢を過ぎ、国内・州内の学生数は確実に減少していく。では、どこから学生を呼んでくればいいのか。これが財政面での現実なのだ。
(注:※州立大学であるテンプルは、州民向けと州外住民向けの学費の設定が異なる)

―しかし、外国人学生を増やすということは、米国人学生が減るということでは。
テンプルには、「ACCESS=(すべての階層に対して)門戸を開く」という伝統があり、私も常日頃心に刻んでいる。外国人留学生が増えると、他の(支援を必要とする)学生の教育機会が減るのではないかという心配も理解できる。しかし私の答えは「我々は二兎を追うことができる」だ。留学生を増やすことは、テンプルの教育価値を高めるだけでなく、大学の収入増につながる。大学がさらに繁栄すれば、国内の学生、特に経済的に恵まれていない学生を支援する資源も増える。大学がより多くのリソースを使ってそうした学生を支援し、また(留学生の多い)国際的な学習環境を提供すれば、彼らの卒業時の競争力も高まるはずだ。

―テンプルから海外への派遣留学生を増やす方策は。
今、さまざまな戦略を練っているところだ。まずは海外のキャンパスを活用する。日本校、ローマ校の学長とも話し合い、さらに広い分野のコースを設置したい。たとえば科学系コースは現在非常に限られている。コースを増やせば、より多くの学生が留学を考えるようになるだろう。しかしながら、昨今のドル安や家族の問題も考えると、フィラデルフィアの教員を東京やローマに長期赴任させるのは容易ではない。そのため、現地の大学と連携してこれらのコースを提供する計画も検討している。また、短期集中型に設計する案もある。そうすれば教員は学期中ずっと外国に滞在する必要がなくなる。留学生を増やすもう一つの方法は、交換留学制度だ。現在の交換留学生は両手で数えられるほどしかいないが、この数ヶ月でアジアの大学に交換留学する予定の学生が10人以上決まった。短期間で劇的な増加だ。今の我々のミッションは、外国大学との間にさらに多くの交換留学制度を構築することだ。

―教員が協力できることはあるか。
もちろんある。もし学生にとって留学がためになると思えば積極的に薦めてほしい。自分のコースに海外学習の要素を組み込むこともできるはずだ。教員のサポートは国際化戦略に不可欠だが、それは学生の留学機会を広げるためだけではない。国際化推進室はいま、さまざまな分野の15名の教員からなる国際諮問評議会を立ち上げようとしている。その目的は、各教員の持つネットワークや知識をもっと効率よく吸い上げて活用することにもあるが、もっと大切なのは、教員自身がテンプルの国際化戦略に具体的に参画する機会を提供することだ。国際化推進室は指図する立場ではなく、教員からのアドバイスやサポートを必要としている。また、外国での活動が多く、海外での評価も高い5名の教員を「ファカルティ・アンバサダー」として任命し、テンプルの海外展開を支援してもらう計画もある。

(原文は2010年4月1日にテンプル大学ウェブサイトに掲載)

戴海龍(Hai-lung Dai)氏プロフィール

台湾出身。国立台湾大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて博士研究員を経て、1984年よりペンシルベニア大学で教鞭を執る。2007年には、テンプル大学カレッジ・オブ・サイエンス&テクノロジー(科学技術学部・研究科)の長に就任。2009年11月末より、国際化推進担当のシニア・バイス・プロボスト(副総長補佐)を兼任。