「素晴らしい学習経験になっています」と、テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)ロースクールのディレクターに新たに就任したティナ・サンデスは、この7カ月間を振り返ります。サンデスは2013年に非常勤の教授として初めてTUJに加わり、民事訴訟手続と不法行為の講義を担当。2016年1月にロースクールのディレクター兼上級准教授に就任しました。
—ディレクター就任からこれまではどうですか?
講義のみを担当していたときとは異なり、多岐にわたる観点からプログラムを見るようになりました。教授として私が重視してきたのは、米国の法律に関して学生が有している専門知識を更に高め、実践的な訓練を通して学生が法律の実務家として世界的なリーダーとなる手助けをすることでした。日本で長く豊富な実績があり、確立したプログラムのディレクターとして新たに就任してからは、とりわけプログラムの全ての側面を詳細にわたり理解することに努めています。プログラムに関わる教職員や卒業生、また地元の法曹界に所属する方々といった、長年支援を続けて下さる方々との対話の時間を持つことが非常に重要であると感じました。そういった方々との交流を通じ、私はプログラムの真価について理解と認識を更に深め、このTUJロースクールが日本のみならず世界でもトップクラスのプログラムとして成長するために改善すべき領域にも気づくことができました。
就任以来、周囲からの圧倒的な支援のおかげで、モチベーションが上がり活力に満ちています。事実、プログラムについて非常に高い関心を持ちアイデアを出し合う多くの人に新たに出会えたことは「嬉しい驚き」でした。私はこのような方たちとの対話から学び、TUJロースクールの今後の方向性に関して創造的かつ戦略的に思案することに多くの時間をかけてきました。
カリキュラム、学生サービス、卒業生への支援、さらには、地元コミュニティとの結び付きを強くする実践的なアイデアを実現する機会に恵まれたことに私は感謝しています。私にはこのTUJロースクールの将来が非常に有望であるという信念があり、このプログラムの本質的価値を高め、国際的法教育のリーダーを目指し邁進することを目標としています。
—就任までの経歴を聞かせてください。
ワシントンD.C.で過ごした学生時代には、ハワード大学で政治学と経営学を学びました。活気溢れる米国の首都で初めての一人暮らしをしながら、大学での学びやD.C.で働くことを通じて、法律、ビジネス、政治がいかに関わり合っているか学びました。大学を卒業後は、米国租税裁判所で審判書記官として働きました。この仕事はユニークで、連邦税法に関する案件のヒアリングのために35を超える州の都市を訪れる機会を得ました。これらの経験に感化され、メリーランド州ボルチモアのUniversity of Maryland Carey School of Lawへの入学を決意しました。法廷弁護士に強い関心を抱いていたため、私は模擬裁判チームの一員となり、人種、宗教、性別、階級に関する法律ジャーナルで編集長を務めました。
法学位の取得後、メリーランド州最高裁判所で1年間、Lynne Battaglia判事の法務書記を務めました。そこでの経験が弁護士としての自分を形作る大きな支えとなりました。幸運にもメリーランドで最も影響力のある女性判事の1人の下で働くことができ、彼女から自分の人生を現在の環境に限定せず幅広い視野で考え、常に法の唱道を力強く追求することの価値を教わりました。その後、複雑な民事訴訟や欠陥製品賠償訴訟を主に取り扱う法律事務所であるVenable LLPへと職を移しました。プロボノ活動にも多くの時間を費やしました。
仕事で国内を、趣味で海外を訪れた楽しい経験を思い起こし、私は弁護士としての仕事を一旦離れ、時間を取ってそれまで訪問したことがなかった世界の各地を旅行することにしました。かねてより日本を訪れたいと考えていた私は、2011年に来日し国内全土や隣国を巡りましたが、これが私にとって最も人生を変える経験の1つとなりました。日本の文化や日常生活に染まることが私に非常に大きな影響を与え、自分の人生を「よりシンプルに」考え、別な形での法の唱道、つまり法教育を意識することを余儀なくされました。
TUJロースクールの非常勤教授となり、学生やプログラムの前任ディレクター、スタッフと素晴らしい関係を築くことができました。これが法律実務から学問の世界へ移行した経緯の発端でした。日本は個人的に、また職業上でも私の人生に本当に大きな変化をもたらし、それに対する感謝の念をこれからも忘れることはありません。
—TUJでの新たな役職に就いてからの成果をいくつかあげてください。
スタッフとの業務移行のスムーズさには驚きました。特に皆の忍耐強さ、組織に蓄積された情報を惜しまず提供してくれて、新しいアイデアに対してもとてもオープンである姿勢は素晴らしいと感じました。そのため、業務の移行自体が1つの成果であったと考えています。
また、春学期のJ.D.日本留学プログラムとして参加した米国のJ.D.課程の学生達と、日本および海外からのLL.M.課程の学生達が共に助け合い学びあう環境を作り上げられたことを誇りに思います。
学生サービスの一環として昨秋に試験的講義として行った「米国弁護士試験スタディコース」の拡大も決定しました。このスタディコースは米国弁護士資格取得を目指して学びかつ受験資格のある学生を支援するため、米国司法試験の受験対策として導入したものです。米国司法試験合格率が全米でここ数年下がり続けていることは周知の通りです。受験戦略やその手法など、学生の試験準備をサポートする場を提供することが非常に重要であると考えました。参加者からは非常にポジティブなフィードバックが寄せられ、2016年秋学期より正式なコースとしてこのコースを開講することが決定しています。
過去7カ月の非常に大きな成果の1つとして、5月25日に主催した国際サイバーセキュリティ カンファレンスが挙げられます。このカンファレンスでは、現在世界的に影響を与えているサイバーセキュリティ問題の責任負担に関する事案に焦点が当てられました。私たちは国際的な高等教育機関として、政策担当者、学会ならびに産業界の関係者が自由に対話しグローバルコミュニティが抱えるサイバーセキュリティーに関する課題への対策を模索するためのフォーラムを開催するという重要な役割を担っていることを実感することができました。
今回は幸運にも米国合衆国国土安全保障省のサイバー政策担当次官補、マイクロソフト社のサイバーセキュリティ対策・戦略部長、さらには日本政府の調査官を含む、多数の官民の重役の方々にこれらの問題に関する議論に参加していただきました。政府、行政、法曹界ならびに学会といった様々な国際的なコミュニティの方々に参加いただきました。このカンファレンスを通じてサイバーセキュリティに関する意義深い議論を行うことが出来、今後も、今回と同様もしくはそれ以上の規模で同様のカンファレンスを開催するための体制を整えることもできました。
—これからの半年ではどんなことを実行したいと考えていますか?また、中長期的な目標を聞かせてください。
今後を見据えると、国際的な法教育を提供する立場として、社会に貢献できる有益な人材を育成する実践的な法務トレーニングを学生に提供することが非常に重要であると考えています。TUJロースクールは学生と同様に法律の実務者も対象とした、世界で通用する教育の「入口」という特殊な位置づけがなされている、素晴らしいプログラムです。国際的な視点による実践的な法務トレーニングを引き続き学生に提供し、このプログラムの強みをさらに高めていきたいと考えています。
ここで学んだ学生が実社会で法務を遂行する準備が整えられるように、国際的なビジネス法のカリキュラムを拡げ、本学での教育の質を更に高める準備をしています。学生が実践的な法務の経験を得る機会は、教育において不可欠な要素です。そのためにも、学生にインターンシップを提供できるよう法律事務所、企業、さらにはNGOとの連携を強めています。
さらに、学生や卒業生向けの就職支援にも注力しています。この取組の一環として、一流の弁護士や企業の幹部職員が学生や卒業生に法務や国際的なビジネス実務に関して講義をしたり具体的なアドバイスを与える場として、「Global Lawyers and Business Executive Lecture Series(国際弁護士とビジネスリーダーの講義シリーズ)」の開催を計画しています。
長期的には海外留学の重要性やその価値にたいする学生の意識を高めたいと考えています。他の文化を体験し、多様な背景を持つ人々と直接触れ合うことで自分の考え方に疑問を抱き、世界市民としてそれらと関わりを持つ時間がすべての人間に必要なのです。TUJ全体、そしてロースクールは学生が「世界人材」になる一助となることを使命としています。
最後に、この新たな職務に就いてからの7カ月間は素晴らしいものでした。私はテンプル・コミュニティの一員となれたことを誇りに思い、現在のプログラムをさらに優れたものとし、今後も着実に発展させられるよう、役割を果たしたいと考えています。