政治研究に情熱を捧げ国際経験豊かな多言語話者以外に、テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)の国際関係学科コーディネーターとしてふさわしい人物を探すことは難しいでしょう。TUJの上級准教授ジェームズ・ブラウンはまさにそういう人物です。教鞭を執る時間のほか、ブラウンは複雑な日露関係の機微を研究しています。5つの言語に堪能で、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、そして日本語を話すことができ、様々な国を旅し、現在暮らす日本のほか、イギリス、フランス、スペインでも生活を送ってきました。そして何よりも重要なのは、ブラウンが、政府の政策が自分には関係ないと考える学生にも、政治に対する興味や関心を抱かせることができることです。
あえて異論を唱える
ブラウンは学生が積極的に議論に参加する対話型学習の提唱者です。「事実確認はインターネット上で簡単にできます」と、彼は言います。「教員は学生が自分の頭で考え分析するように促す必要があります。政治に対する大きな問いには、間違いもなければ正解もないのです。どのようなアプローチでも強みと弱みがあります。国際関係学科のカリキュラムでは、学生がそういった強みと弱みを把握し議論できるように教育しています」。
国際関係学科では、特定のイデオロギーの助長を避けるように努めています。「もちろん、私たちの意識の中には偏見があります。」と、認めた上でブラウンはこう話します。「しかし、そのような先入観の存在を認識した上で、情報を客観的に提示するよう最善を尽くすべきなのです」。ブラウンが学生に質問を投げかけ、彼らが自ら結論を導きだすように促す指導方法を選ぶのには、こうした考えがあるのです。
また同時に、ブラウンは通説や先入観を疑います。例えば、ある1つの講義の課題図書では、民主主義が政治的指導者を選択する方法として妥当であるかを問います。この課題を学生に課す際、ブラウンは、民主主義よりも優れたシステムがあるという考えを宣伝するのが目的ではないことを説明します。このような課題の意図は、学生が自分の仮説を検証し、欠陥を孕んでいるのにも関わらず、民主主義が魅力的な政治形態であり続けられるのはなぜか、自ら考えることを促すことにあるのです。また、別の講義では、北朝鮮側から見た国際政治を分析します。その目的は、平壌の活動を正当化することではなく、北朝鮮という国をより良く理解することにあるのです。
「あえて異論を唱えることは教える側の役割の1つです。学生が講義に消極的な時は特にね」ブラウンは笑いながらそう話します。
東アジアへのフォーカス
国際関係学科では、様々な政治テーマについて学習し世界情勢をより正確に理解できるように学習を進めますが、東アジア、とりわけ日中韓の政治に重点を置いています。このカリキュラムを通じて、学生は近現代史の基礎や、経済学の基本原理、経済理論、アジアにおける大国の政治とそれら国々の国際関係を学びます。講義で扱う政治テーマには、戦争と平和に関する理論から民主主義、政治哲学に至るまで多岐にわたります。日中韓の政治に関する講座に加え、中東やユーラシア、そして米国など、東アジア以外の国々の政治を広く学ぶ講義が提供されています。さらに、学生は卒業するまでに日本語、韓国語、中国語の中から少なくとも1つの言語で中級レベルの言語能力を獲得することになります。
国際関係を専攻する上で最大の魅力の1つが、必修のインターンシップへの参加です。学生は各国大使館や大手外資系企業、NGOなど、国際関係に関連する職場で貴重な経験を積むことができます。そのような機会を通じて、学生は講義で学んだ理論や知識を現実問題にあてはめていき、実践的なスキルを習得するだけでなく、政治やビジネスの世界の仕組みをその内側から学ぶこともできるのです。中にはインターン先にそのまま就職する学生もいます。
TUJの3年生で外交官志望のアレクサンダー・ゴンザレスさんは、このプログラムが世界、とりわけアジアの政界で重要な役割を果たしている人物、国々に関して、自分の知見を広ろげるきっかけとなったと話しています。東アジアの政治を専門的に学ぶと決めているゴンザレスさんは、自身にとって日本は完璧な場所だと言います。東京での生活が日本の文化を深く学び、言語を身につけるための絶好の機会を提供しているのです。「ここで学べるというのはある意味特権ですね」ゴンザレスさんはそう言います。「またとない機会ですから!」ゴンザレスさんは将来、外交官となる上で、国際関係における学位と日本語能力が自分の大きな財産になると確信しています。
国際関係学科4年生のティアゴ・セソコさんは、卒業研究(各学科の最終段階で、学生がそれまでの学びを通して獲得した知識や技能を実践的に提示するライティング・セミナー)で香港の雨傘運動を研究しました。「人権問題に興味があって(香港のNGOで)インターンシップに臨んだ際、卒業研究で書いた雨傘運動に関する論文を活かすことができました。」とセソコさんは振り返り、インターンシップの面接ではその 大学での研究が重要な役割を果たしました。卒業後にはロースクールで学び、最終的には亡命希望者と関わる仕事に就きたいと考えています。
学生の多様性がグローバルな視点を育む
TUJは東京で最も国際色豊かな場所の1つです。講師と学生は様々なバックグラウンドや文化を持ち、外交官の子女や退役軍人、日系外国人などがキャンパスで学んでいます。「学生と教員の文化的、民族的多様性が、学生の知見を広め、様々な社会や文化に対する理解を促進しています」と、TUJで「中国:国家と社会」というコースを教える講師のイ・ワンは言います。「異文化を理解する能力は、グローバル化が進む時代では特に重要です。そしてこの能力は、 TUJ で学ぶ学生たちの強みであるはずです」。
卒業生の多くは自国に戻り、多国籍企業やそれぞれの国内企業で働いています。学位取得後には、彼らは日本の文化や伝統の活きた知識を持つ、アジア地域の専門家となり、市場価値の高い人材になります。日本人学生はとりわけ、多様性に富んだ大学の環境から恩恵を受けることになります。外国人と日々接することで、均質な環境で学んだ他の日本の大学の卒業生とは異なる、グローバルな視点を持つことができるようになるからです。またブラウンは、このプログラムでは、日本の多くの若者があまり気づいていないこと、政治が楽しくエキサイティングな学びとなり得ることを日本人学生は体得できるとも言及しています。
幸福の追求
「自由に発言し、自分の考えを表現し、他者を尊重する」ことがブラウンの教育モットーです。彼は学生が自身の意見を持ち、互いに議論し合い、他者の意見を尊重しながら個人攻撃となることを避けつつ、相手の意見を批評できるように学生を指導しています。学生が自分の夢を追い、自分の選んだ道を進み、そして自分の信念に誠実であり続けることを彼は願っているのです。
ブラウンは幼少の頃からニュースを見て、政治は常に興味の中心でした。ロシアの外交官が彼の父を家に訪ねてきたことがきっかけで、ロシアという国、そしてロシアを取り巻く外交関係に興味が芽生えたのです。年を重ね、政治はブラウンの専門分野となりました。ブラウンは、たとえ報酬がなくとも政治の研究は続けていきたいと語ります。ブラウンには政治に対する熱意があるのです。「政治は最も重要な題材の1つです。私たちの生活に多大な変化を生じさせ得るものですから」
執筆者: オリガ・ガルノヴァ(コミュニケーション学科/アート学科同時専攻)