テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)のアート学科では、伝統的なドローイング、ペインティングから、デジタルを駆使したアートまで、幅広いメディアを探求することができます。2Dデザイン、ドローイング、3Dデザインなどの基礎クラスを修了した学生は、アナログとデジタルどちらでも、自身に合ったカリキュラムを組み立てながら履修、制作していきます。
経験よりも、情熱
TUJのアート学科は、美術大学とは異なり、アート制作の経験が少ない学生も受け入れています。このプログラムには高い柔軟性があり、異なるスキルレベルや、興味の対象も様々な、バックグラウンドの異なる人々が入学できるシステムです。カリキュラムは初心者にも馴染みやすく、基礎クラスでは、技術だけでなく、基本となる「考え方」を学びます。他の大学でアート教育を受け、高度なスキルを持ち、ポートフォリオを提出できる学生は、単位移行が可能な上、高いレベルのクラスから受講を始めることも可能です。
アート学科では、美術史を3クラス、教養学部課程のコースから5クラスの単位を所得することが必修になっており、制作とは関係ない、一般的なアメリカの大学授業も必修になっています。さらに、第2専攻または副専攻を持つことで、アート以外の学習を続けることも可能で、人気のある第2専攻は、ビジネスと心理学です。尚、TUJでは、途中で、専攻を変えることもできます。
クリエイターになるということ
渡部真也(アート学科 アドバイザー兼コーディネーター)を見れば、彼がアーティストということは一目瞭然。ベレー帽、遊び心豊かに首に巻かれたスカーフ、そして自分の話をするときのリラックスした態度などが、彼が芸術家であることを物語っています。彼はここまでの道のりについて、ざっくばらんに話します。起こるべくして物事が起こっただけ、特に珍しいことはなかったと。しかし、彼の歩んできた道のりは独特です。
渡部は、日本で生まれ育ちましたが、アメリカの高校に進学しました。音楽を勉強するにはそのほうが有利と考えたからです。卒業後、東京に戻り、開校したばかりのTUJに入学。渡部が日本の大学に通うことに興味がないと知ったとき、彼の父親がTUJを勧めたとのこと。
TUJの学生時代、渡部は自由時間のほとんどを通訳のアルバイトに使っていました。ほどなくして彼は、取材のために来日していた、アメリカのネットワークニュースNBC Newsのホワイトハウスチームの通訳をすることになります。1週間ほどの取材活動の後、NBCは、まだ学生だった彼に仕事のオファーをしました。彼は大学を休学し、アメリカの 放送局で働き始め、5年に及ぶキャリアが終わる頃には、一通りのニュースの制作ができるようになっていました。
彼の上司が「Degrees matter(学位は大事だ)」と言い、大学に戻って卒業することを勧めたため、アドバイスに従うことにしました。渡部は最終的に、フィラデルフィアのテンプル大学本校で学士号と美術修士号を修了します。
サイバーメディアの本質、アーティストとオーディエンス(鑑賞者)の関係におけるインターネットメディアの役割と性質を考察した渡部の修士の展示は、テンプル大学の芸術修士卒業展(MFA shows)において最も訪問者の多かった展覧会の一つとなりました。卒業後、渡部はマルチメディアのアーティストを経て、TUJのアート学科のコーディネーターに就任。彼のアートへの関心は、写真やウェブデザインから、音楽、パフォーマンスアートまで、多岐におよんでいます。
アメリカ式アプローチ
TUJのアート学科は日本で唯一、アメリカ式のアート教育メソッドで学位が取れる場所です。すべての授業が英語で行われるだけでなく、アートクラスの課題はすべて、プロジェクトに基づく形で実施されます。 そして、自分の作品を発表しグループディスカッションをおこなうクリティーク(批評会)は、アートクラスの最も重要な要素の一つであり、講師とクラスメイトから意見が得られる絶好の機会です。学生はアートについて話すことを学び、「Critical Thinking(分析的思考)」を通して自分の作品制作の過程をより深く考察します。分析からの改善を行うことで芸術作品の質、理解を深めていくのが、アメリカ式アプローチです。
アート専攻のレジーナ・スツカレンコさんは、アートの授業が彼女の作品を大幅に改善したと言います。「以前は何も見えていなかったかのように感じています。いろいろと間違っていました」。講師やクラスメイトのおかげで技術やコンセプトが向上し、より大きな自信を得る助けになったとのこと。
2Dデザインおよび3Dデザインクラスは、平面と立体の形状や構成の理解を深めるのに役立ちます。3Dデザインのクラスでは、学生は空間的関係を考察、探索します。2Dデザインのクラスでは、デザインと、私たちの周りの世界との接点を考察する課題も実施されます。学生は、ゴミの分別や収集、外国人にやさしい街路標識、交通安全など、地域社会の問題解決に、デザイナーとして取り組むのです。
デジタルのクラスは、写真、デジタルグラフィック、およびインターネットに焦点を当てています。実際にオンラインで何でもできるいま、デジタルのスキルは高い市場価値を持っています。コンピュータとウェブのリテラシーは、もはや専門家のものではなく、デジタルメディアに対する知識は、どの分野においても成功の鍵の一つなのです。
豊富なアート関連のキャリア
TUJのアート学科の柔軟性と、幅広く提供される様々な種類のクラスのおかげで、卒業生はウェブデザインやEコマース、広告、教職、そしてもちろんアートを創造するなど、幅広い職業に就いています。TUJの卒業生は、楽天、ヤフー、電通などの大企業で働いています。
東京という地の利、60カ国以上の国から学生が集うTUJの国際的な環境、アート学生にとって大きな恩恵です。アーティストは、文化の多様性と、馴染みのない環境からインスピレーションを得ることができます。全ての問題を解決できる万能策がないことを理解すると、新しいアプローチや独創的な考え方に繋がっていくのです。学生は自国の文化をより客観的な視点で捉えるようになり、アートの世界で生きていくための大きな利点となるでしょう。
「If you learn how to survive as an artist, you can survive anything(アーティストとして生き残るスキルは、いかなる職業でも有効である)」と渡部は言います。予測不能な世界で、絶えず自分自身の課題に挑戦するアーティストたち。次にどんな作品を作ることになるかは本人にもわからないのです。彼らは、アイデアは制作過程で形を変えてしまうことを非常に早い時期に学びます。 この「気づき」は、急速に変化する現代の社会において大きな資産となるはずです。
文: オリガ・ガルノヴァ(2017年卒業 コミュニケーション学科/アート学科同時専攻)、翻訳編集:TUJ広報・マーケティングサポート部