ナオミ・サニカ・モーアさん
ナオミ・サニカ・モーアさんテンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ) (心理研究学科)の研究論文 「性の健康とウェルビーイングに関する学生アンケートの開発」(Development of the Student Sexual Health and Wellbeing Questionnaire)が、米国テンプル大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のテンプル大学図書館リビングストン学部研究賞・社会科学部門 [注1]を受賞しました。この研究は、心理研究学科のライティング・ディレクターで心理学准教授のアダ・アンヘル博士が指導する「研究調査の企画::理論から実践まで」(Survey Design: From Theory to Practice)という授業の一環として実施されたものです。学生はこの授業で、研究調査における有効な方法論とテクニックを学び、学んだ成果を応用して、従来の調査項目を見直し、実際に自分が希望するテーマで調査を行います。
*注1:テンプル大学図書館リビングストン社会科学分野における学部研究賞(Livingstone Undergraduate Research Awards)は学部学生の優れた研究を称える賞で、研究テーマや手法、課題に対する切り込みの深さや視点の広さが評価の対象です。受賞者は、創意に富んだ方法で研究テーマに取り組みオリジナルな成果を出しているか、革新的な研究方法を用いているかなどを基準に選考されます。
参考: Livingstone Undergraduate Research Awards
「性の健康とウェルビーイングとは何か」という問い
モーアさんの研究 「性の健康とウェルビーイングに関する学生アンケートの開発」において、彼女は「性の健康とウェルビーイングをサポートするためのリソースを若者に提供するのは、大学の重要な役割でもある」と主張しています。そのためには、学生が実際に何を必要としているか理解する必要があります。「大学は、性的アイデンティティや性的な存在としての自分を深く知る刺激的な機会を提供してくれる場でもあります。しかし多くの若者は、性の健康について学ぶ機会や知識が不十分であったり、知っていることにも一貫性がなかったりします。この現状が、大学生の性の健康に悪影響を及ぼす可能性がある」と彼女は指摘します。
モーアさんは研究を進める中で、文献に書かれている内容と大学の現状にギャップがあることに衝撃を受けたそうです。「私は20代前半の若者として、性の健康とウェルビーイングを自分の生活の中で実際に経験していますが、参照した文献は若者の性体験のとらえ方が極めて皮相的と言わざるをえませんでした」とモーアさんは述べています。彼女によれば、現状の性の健康に対するアプローチは大学生世代を対象にしていないし、現在の理論的な定義はこの世代の若者をサポートする役割を果たしていないとのことです。
意図しない妊娠や性感染症などの医学的な問題だけでなく同意の上での性交渉の問題についても、このようなギャップが深刻な問題を引き起こすおそれがあると彼女は懸念しています。「私は、学生にもっと多くの情報を提供する必要性を強調したかったのです。少なくとも、性に関する私たちの現状の理解度がどの程度なのかを明らかにしたいと考えました」。
このプロジェクトでモーアさんが目指したのは、学生の性に関わるデータを収集する方法を見つけ出すこと、そしてそのデータを活用する枠組みを作り、現実に変化を起こし、学生へのサポートやサービスはどうあるべきかを提示することでした。
アンケートの作成
モーアさんはアンケートの作成に当たって、質問してよい項目と質問すべきでない項目を決めるとき、文献で読んだものと同様のバイアスや限界を経験しました。「教科書では、質問内容を和らげたり、できるだけ回答者に負担の少ない方法で質問したりする方法を学んできました。しかし、私が当たり障りのないアンケートを作っていたら、ありきたりの平凡なアンケートになっていたと思います」。
モーアさんは当初、デリケートな内容についてどう質問したらよいか悩んだと言います。質問をする必要があるにもかかわらず、「質問が露骨すぎるのでは」と心配になることもありました。しかし、Survey Design: From Theory to Practiceの授業では、学生同士が批評しあい、アンケート項目について互いにフィードバックする機会が多いため、それがモーアさんにとって答えを見つける近道となりました。「完璧なアンケートを作ろうとしないことです。回答者が情報を提供してくれるように対話をすることが必要だと思います」。友人のサポートやアンヘル先生のアドバイスを受けながら、彼女は何度も質問項目を練り直し、ブラッシュアップを重ねた結果、彼女のアンケートは、1週間で75件の回答を得ることができたのです。
「1週間で75人もの回答が得られたことは、素晴らしい結果です」とアンヘル博士は言います。「彼女はこのアンケートの結果を用い、しっかりとした理論的枠組みと良く分析されたデータに基づく素晴らしい学術論文を完成させました。このプロジェクトは、非常に優れたもので、今後TUJの学生の性の健康とウェルビーイングを把握するために使うことができる内容となっています」。
左:ナオミ・サニカ・モーアさん、右:心理学准教授のアダ・アンヘル博士
情報は他者と自分を助けるための鍵
モーアさんは、性体験のある人もない人も性について十分に理解のできる、幅広く偽りのない情報が重要だと言います。「自分自身を支え、そして他人も支えるために、私たちは性の健康とウェルビーイングについて知るべきだと思います。現実の複雑な人間関係の中でも自分を見失わず、自分の感性や人との関係を大切にし、自分の人生を楽しむことにもっと集中できること、それが私の夢です」。
彼女の将来の目標は、世界を舞台に若者のメンタルヘルス関係の仕事に就くこと、さらにインターナショナルスクールのカウンセラーとして働くことだそうです。今後のモーアさんの活躍に期待します。