地方自治、国内政治、そして国際政治というレベルにおいて、私たちは自分たちをどのように統治しているでしょうか?また、私たちが政治に参加するにはどうすればいいでしょうか?どのように政府の政策に影響を与えることができるでしょうか?理想的な政府とはどういったものでしょうか?これらの問いが テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)政治学科の中心に据えられています。政治学科コーディネーター兼政治学准教授である柿﨑正樹によれば、こうした問いには正解も不正解もないといいます。様々なアプローチや政治システムには独自のメリットとデメリットが内在していて、そのような多様さがあるからこそ、政治学が非常にエキサイティングなものになるのです。
柿﨑は本プログラムの特質として、現在そして過去の政治システムの実証的研究、理想的な体制や国家とは何か、そして政治と社会の理想の関係とは何かを探る理論的議論を組み合わせ、これらを総合的に学べることにあると説明しています。政治学科のカリキュラムは「体系的にまとめられていて、包括的なもの」になっているのです。学生は入門課程で米国や諸外国の政府や政治について学びます。他のコースでは、アジアや中東、ヨーロッパ諸国における政治を学ぶことができます。特に焦点がおかれているのは国際関係で、柿﨑は「グローバル化の時代においては非常に重要」と強調しています。
多くの学生は政治学と国際関係学の両方の専攻目指しています。今年の春学期に入学したジェイコブ・マギュアさんもその一人で、「この二つの学科は密接に関連しているようですね」と話しています。マギュアさん は環境運動に非常に熱心で、環境保護活動に取り組んでいる団体や機関、あるいは組織で働くことを望んでいます。環境問題に影響を与えるためには、政治制度に関する深い知識が必要で、この政治学科ではその知識を提供していると彼は考えています。
TUJの政治学科は、TUJが東京にあるという理由から、従来はアジア地域に焦点をあててきました。しかし、柿﨑は対象地域をさらに広げようとしています。昨年、政治学科にはヨーロッパ政治が加えられました。今後はアフリカや南アメリカの政治に関する授業も検討されています。「アフリカを語ることなくして世界情勢を語ることはできませんから」と柿﨑は言います。また柿﨑は、ブラジルやプエルトリコ、コロンビア、そして南アメリカならびに中央アメリカのその他の国々から多くの学生がTUJで学んでいることにも着目しています。各国から集まってくる学生は自分たちの国や地域の政治について、そしてそれらの国々の国際的な役割について学ぼうとしているのです。
科学に対する着目
政治学は最古の学問分野の1つです。その起源は、人々を統治するための最善の方法を模索したソクラテスやプラトン、そしてアリストテレスなど、古代ギリシャの哲学者にまで遡ることができます。「私たちは政治を科学的な方法によって学んでいます。政治を政治的に学んでいるのではありません」と、柿﨑は主張します。政治学科では統治のメカニズムに焦点があてられています。例えば、政治学を教える教員の中には、学生に理想的な国家とは何かを説明させるレポート課題を出すことがあります。学生は徹底的なリサーチを行うだけでなく、政治理論やモデル、ケーススタディなどを当てはめていきながら課題に取り組んでいきます。
本格的な政治的議論であれば、それがどのようなものであれ、多様な意見や視点を内包しているものでなくてはなりません。したがって、どのような政治観を支持する場合であれ、学生は自分たちの考えを表現するよう求められます。彼らは他者の意見を尊重するように教わるだけでなく、自己の論点を明確に立証するための根拠やデータ、そして事実を有効に使うように教えられるのです。柿﨑は自分や他の教員が、極右的または極左的な政治観を持つ学生を前に教壇に立ったことがあると言います。そのような学生の意見に教員が賛成することはないかもしれませんが、彼らに対する評価基準は常に客観的であり、議論の展開や事実の提示など、議論の説得力が重点的に評価されます。
多様な視点
柿﨑は教員と学生の多様性をとりわけ尊重しています。政治学科では、中国や米国、スコットランド、日本など、様々な国々を出身地とする教員が教壇に立っており、そこに世界中からきた学生が加わることで、講義にユニークな視点がもたらされます。この豊かな多様性は、「政治学の教員そして学生にとっての大きな利点となります」と、柿﨑は言います。米国の退役軍人がパレスチナやサウジアラビア、湾岸諸国、パキスンタンなどの国々からきている学生と同じ教室で講義を受け、彼ら全員が国際政治に対する多様な視点をもたらしています。講義では米国軍の中東地域における軍事活動などが頻繁に議題にのぼりますが、これは学生のバッググラウンドや政治観によって問題に対する解釈が変わってくるからです。
このような国際的な環境は、様々な考え方を学生が発見し、それらを探求するきっかけとなっています。学生は、他の国々の学生と交流し、彼らを通じて自分とは異なる視点や世界情勢を知ることもできます。TUJの講師キャサリン・マンジーノは、「貧困や国際援助、貿易、政治体制などの問題について語る時、そこには常に2つの意見があり、その間に無数のグレーゾーンがあること」を学生に理解してもらいたいと話しています。これらの問題は非常に複雑であり、詳細な検証が必要となるのです。「正しいとか、間違っているというのではなく、それぞれの意見の良い点と悪い点を秤にかけて熟考することが重要になります」と彼女は話します。
他国への配慮や尊重を育み、それらの国々の政治経済を学ぶ際は、細部を注意深く分析することも重要になります。ICAS(現代アジア研究所)非常勤フェロー兼政治学講師マイケル・チュチェックは、学生たちに日本の各都道府県の政治経済に関するレポート課題を出しました。米国のテレビ番組、ザ・コルベア・リポートの人気企画 “Better Know a District”(BKADとしても知られています)を手本にしたこの課題では、各学生はそれぞれに割り当てられた県の地理や歴史、政治、経済に関して、詳細な分析を準備します。「この課題を通じて私たちは多くのことを学びました」とチュチェックは振り返ります。
今後の展望
TUJでは、政治学はリベラルアーツ教育の一環として教えられています。したがって、政治上の手続きや政治システムに対する深い理解だけでなく、コミュニケーションスキルや分析能力、論理的思考など、あらゆる業界で有効となるスキルを身につけることができます。また、そのようなスキルは、激動する現代では必須となる生涯を通じた学びの礎を築くものでもあります。
政治学科を専攻する多くの学生が外務省などの官公庁や政府組織、NGOで働いています。最近では日本の警察に就職した卒業生もいます。1年生のポール・アニック・コレアドラゴさんは、自分が生まれ育ったリオデジャネイロの州知事になることを夢見ています。彼は TUJでの教育が「自分の政治キャリアを始めるには素晴らしいスタート」であると考えています。政治行政の道に進むキャリアはもちろん理に叶った人気の選択肢ですが、卒業生にはそれ以外の道も用意されています。卒業生の中にはグローバル・ビジネスの世界に踏み込む者もいます。また、社会科学系の大学院やロースクール、そしてMBAなどに進む学生もいます。
執筆者: オリガ・ガルノヴァ(コミュニケーション学科/アート学科同時専攻)