キングストン教授のポートレート写真

アジア研究学科コーディネーターのジェフリー・キングストン教授は学科を通して、学生がこの地域に関する知識を深める手助けをすることで、アジアに対する興味を高め、アジアに関連した仕事を探す動機づけに注力しています。授業では自身のフィールドワークを活用し、アジア太平洋地域での過去30年以上にわたる生活および渡航経験から培った深い見識を紹介しています。キングストンは自身の持つ知的好奇心と共感から研究に心を注いでいます。歴史家として研鑽を積む一方で、現代社会に起こる事件、課題にも目を向けています。例えば、2011年3月11日に発生した東日本大震災に寄せる思いから、その犠牲者を助けたいという強い願いと、荒廃してしまった地域との個人的なつながりに駆り立てられ奔走しました。

キングストンは、学生が自分の情熱に従い多様な興味の対象を追求するよう奨めています。アジア研究学科は異なる学問分野にまたがる比較分野であるため、学生は必要な知識と深い洞察力を得られるような履修が可能であると考えています。本プログラムでは、学生は複数の専攻にまたがる科目を通じて、数多くの専攻や専門の中から最高の教授陣の知性に触れることができます。例としては、「現代の日本における視覚人類学」の科目はアジア研究と人類学の両方にまたがる科目として登録されています。こうした取り組みにより、学生はさまざまな言説と研究手法に触れる機会に恵まれ、そのおかげで視野が広がり批判的分析力のスキルが高まるのです。

アジアに対する情熱

キングストンは昨年3冊の書籍を、またこれまでには10冊以上、加えて数々の論文や書籍の一部寄稿、随筆や論説などを出版しています。日本およびアジアでのトレンドや事件事象についてマスコミからインタビューも頻繁に受けています。1988年以来、日本最大の英字新聞であるジャパンタイムズにも積極的に寄稿しており、「Counterpoint」という週刊コラムを執筆しています。また、アジア太平洋ジャーナル:ジャパン・フォーカス誌の寄稿者でもあり編集者でもあります。これは寄稿者同士の論文審査をもとに発行されているオンライン専門誌で、アジア太平洋地域の研究に特化した媒体です。また、様々な出版社に向けた出版企画書の校閲も行っています。アジアやその他の地域へ頻繁に足を運び、研究材料を自ら収集し、学会で発表しています。

1982年の新婚旅行で初めて彼はアジア地域を訪れ、妻の親戚の暮らす三陸海岸へとやってきました。「驚くほど美しい場所だったことだけを覚えています」と当時を回想しています。それ以来何度もその地を訪れただけに、3.11の大地震に見舞われた2週間後にその地を訪れた時は途方もない喪失感に打ちのめされました。めちゃくちゃに破壊されたその様子に、キングストンはこの大惨事の前兆とその結果起こった出来事について時系列に記録せずにはいられなくなり、ここからこれまでの仕事の方向性が大きく変わることとなりました。「私個人とかの地とのつながりからくる強い思いがそうさせました。 [中略] 何か手助けになるようなことがしたかったのです。」と彼は語っています。同地域で1933年に発生した大津波のつらい経験のある高齢の親戚から話を聞き、その結果2冊の書籍を編集、三大災害 (地震、津波、 原発事故) について数多くの論文を執筆し、東北へ何度も足を運んでデータを収集しながら支援に尽力しました。

自分の専攻をカスタマイズする

アジア研究学科の学生にとって一番の魅力は自由度の高さです。本プログラムでは学生がアジアの多様性に触れることができるようになっており、アジア太平洋地域の歴史、文化から政治、経済までの多岐に渡り広く理解を深めることができます。更に、アジア研究学科の学生は全員、最低でも中級レベルの日本語、韓国語もしくは中国語の能力を修得します。「言語能力によって門戸が開かれ、理解を共有し、対象への距離を近づけることができるのです」とキングストンは語っています。

アジア研究学科では学生が興味を追求し、学びたいことと履修をそれぞれの希望に従って履修プログラムをカスタマイズすることができます。その科目は国際関係学や宗教、美術史から経済、ポップカルチャー、歴史に至るまで多岐に渡ります。教授と自主研究を行い、特定の興味ある分野を追求することも可能です。

アジア研究学科では、日本およびアジア地域の大学との間で、単位互換プログラムを利用できるという利点もあります。参加大学には武蔵大学や明治大学文学部、東洋大学国際地域学部、昭和女子大学などがあります。 4年生のダリル・ホーさんは、最近武蔵大学との交換制度を利用し、「授業はとても気に入りました」と語っています。異なる教育的アプローチに触れ、日本の教育システムを体験したのはとても素晴らしい経験になったといいます。その授業のおかげで、彼の興味対象に対する知識は深まり幅も広がったそうです。

アジア研究学科では、学生はテーマの選択と学習のアプローチの両面において、豊富な選択の機会を与えられています。アジア地域に関するテーマであれば、大概希望に応じて研究を進め、文字通り専攻をカスタマイズすることが可能なのです。

授業中のキングストン教授
授業中のキングストン教授

訓練を重ねて完璧を目指す

理論的知識の幅に加え、アジア研究学科では学生は実務スキルも磨くことができます。例えば、上級准教授堀口佐知子が教鞭をとる「現代の日本における視覚人類学」では、フィールドワークの基礎を学ぶことができます。視覚に訴えるブログや記録の作成、東京の日常生活を記録した観察記の作成、この科目で学んだ人類学的分析等の宿題が出ます。読書課題と現実の生活で得られた実体験とを比較することで、学生は文化に対して批判的な見方ができるようになり、理解を深めることができます。それは両方とも「特定の地域で生じる事象について理解するために、重要なこと」と堀口は語っています。

アジア研究学科ではまた、国際機関と国内団体におけるインターンシップも提供しており、ビジネスの場、大使館およびNGOなどで受けることができます。学生は自分の持つ知識やスキルを試す機会を与えられ、将来の仕事の可能性について模索でき、職業のネットワークを広げることが可能になります。研究に興味のある者にとって、インターンシップはこの上ない貴重な経験となり、学生が競争力をつけることが可能となる説得力ある履歴書を作成できます。2017年5月に卒業予定のベイン・ヤンタロフさんはこう語っています。「地域文化と伝統に直接触れる経験、とりわけ企業文化やビジネスの場での実務経験は、アジアに関連する仕事を確実に得られるようにするには非常に重要です」。彼は現在、ロシア総領事館の競争率の高い求人に応募中ですが、他の応募者に比べて自分が際立っているという自負があります。

実務経験のチャンスはビジネスの場や公共サービスに留まりません。学術的な仕事に真剣に興味のある学生は教授の研究に参加することも可能です。キングストンは最近、アジア地域の原子力エネルギーに関するプロジェクトで学生を助手として受け入れ、また別の学生を宗教やナショナリズム、アイデンティティーに関する出版予定の著書のために指導しました。選抜された学生にはTUJの研究奨学金が支払われます。

門戸は無限大に

「アジア研究専攻の学生には多くの仕事の選択肢があります」と、キングストンは言っています。アジア太平洋地域は現在、世界で最も動きのある地域の一つです。このプログラムにより、学生はアジア地域で働く際に必須の知識とスキルを身につけることができます。卒業生は大手広告代理店、商社、航空会社、市民社会団体、マスコミ、政府、その他さまざまな国際機関に就職していきます。

学生と教授陣の多様性により、学生は幅広い多様な文化背景を持つ人たちと共に国際的な環境で働くことができるようになります。上級准教授カイル・クリーブランドは、TUJでの学びにより「国際的で、多様な人種を受け入れる心の持ち方」が可能になるといいます。グローバル世界ではこれは大きな利点であると彼は考えており、プログラムが論理展開能力や基本に立ち返って合理的な決定(感情的な決定の対立概念として)を下すことのできる能力を伸ばすことに主眼を置いているとも強調しています。合理的決定の能力はどの分野の専門家にとっても素晴らしい財産となります。彼もまた、フィールドワークを含む、福島原発事故の研究に学生を関わらせています。

学び続けたいと願う学生の多くが、トップクラスの大学の大学院へ進学しています。例を挙げると、昨年度卒業のTUJ卒業生はケンブリッジ大学の修士課程で学んでいます。アジア研究学科は大学教授になる卒業生も多く、現在メルボルン大学(人類学)、立命館大学(国際関係学)、シンガポールの南洋理工大学(芸術史)、ノースウェスタン大学(日本語) 、フォーダム大学(芸術史)などで教鞭を執っています。やる気と意欲に満ちた、好奇心旺盛の学生にとっては最適な学科です。

著書をてにするキングストン教授
キングストン教授と最近の著書の1つ「Nationalism in Asia: A History Since 1945」。Photography by: Olga Garnova

執筆者: オリガ・ガルノヴァ(コミュニケーション学科/アート学科同時専攻)