渡部真美、DRSのオフィスの前で

TUJの障がい学生支援室(DRS)では、さまざまな身体的・精神的な障がいや学習の仕方に違いを抱える学生、および医学的状態の異なる学生が、あらゆる面で他の学生と同じように大学生活に参加できるよう全面的な支援に取り組んでいます。DRSは包括性(インクルージョン)および多様性(ダイバーシティ)を追求するヴィジョンを念頭に、 学生が持つそれぞれに異なる能力を重んじる環境作りの促進に注力しています。TUJコミュニケーション学科3年生のケイリ・ハミルトン-モウレイラが、DRSの渡部真美コーディネーターにインタビューしました。

「インクルージョン」の歴史と未来

TUJは米国本校の例に倣い、DRS部門を運営しています。米国本校では1976年、1973年の米国障害者法およびリハビリテーション法第504条に準拠して、障がいを持つ学生向けサービスを開始しました。DRS部門は、障がいのある学生に公平に支援を提供し、望ましい教育をすべての学生へ提供するために、その障壁をなくす取り組みをしています。日本では障がい者サービス自体は比較的新しい取り組みですが、急速な広がりを見せています。 2016年4月、障がい者に対する差別を禁止する法律が日本で新たに施行されたため、企業、学校、職場における運用が広く求められるようになりました。2017年度障害者白書によると、障がいを持つ日本人は930万人を超えるということです。

機会均等を進める支援者

渡部真美氏は、障がいを持つ学生を支援するTUJのDRSコーディネーターです。オンライン登録のプロセスを通して、DRSの個々人に応じた支援要請書を学生が提出できるよう準備するなど、幅広く仕事を行っています。米国本校と同様に使用しているオンラインシステムMyDRSを通じて、学生のプロフィールおよび学生の特定の教育的ニーズが登録されます。システムを利用することで学生は、当該教員に対し、その学生に適した支援要請書を送ることができます。この要請書により教員は学生のニーズに合うのはどのような支援であるかを熟知し、個人情報を開示せずとも必要な情報を教育現場に取り入れることができます。学生のための支援要請や教員との交渉、時には米国本校のDRSコーディネーターと共同で支援を行うなど、臨機応変に仕事を進めています。支援方法を見極める際の主な指標の一つは、学修のユニバーサルデザインであり、これは多様な学習能力やスキルに対応できる解決策を提示するためにさまざまな局面で適用されていきます。例えば、字幕付きビデオの活用は、難聴を抱える学生だけでなく、視覚から効率よく学べる学生にも効果的です。「人は異なる知覚を通じて学ぶものです」と渡部氏は言います。

アシスティブ・テクノロジーと先進的解決策

渡部氏は、「日米の教育環境における学生の能力および成果の評価方法は、まだまだ十分ではありません」と述べています。大学環境の包括性を向上させる重要な改善策の一環として、アシスティブ・テクノロジー(AT)や、障がいを持つ学生の機能向上に役立つハードウェアやソフトウェアを例として挙げています。2019年にTUJが三軒茶屋にキャンパスを移転するにあたり、DRSでは今夏、新たな取り組みを進めています。より進化したアシスティブ・テクノロジーの導入や、試験時間の廃止などです。学生が試験でスピーディに習熟度を示せることは、十分に修得できていることとはまた別のスキルだという考えからです。

DRSコーディネーターの素顔

渡部氏は神奈川県で生まれ育ち、いつも日本の社会や文化の枠を超えて活動する夢を抱いてきました。TUJの多くの学生が経験するのと同じように、「すべてを味わいつくし、すべてを感じとり、あらゆる人たちと話をしたいという気持ちに駆り立てられたいた」と説明しています。日本の大学では、日本史を専攻し、卒業後は旅行に熱中した結果、17年もの間海外で生活をすることとなりました。中国へ渡り、語学学校に通ってから、英国に行き、最終的には米国に留まり、修士号取得に取り組みながら、大学職員としてのキャリアを積みました。 「私はこれまでずっと学校が大好きでした。何かを創造したり、社会や世界に有効な解決策を提供できるような環境が好きなのです」。2014年から2017年にかけてはバーモント大学で、特に人種とジェンダーに関する多様性と包括性に焦点を当てた業務とトレーニングにあたりました。この経験はさまざまな人生の経験やものの見方を理解するのに役立ち、DRSコーディネーターの道へ導かれた要因の一つになったといいます。バーモント大学では、有色人種の女性として米国で働きながら暮らすという独自の経験を言語化する能力を磨き、多様性と包括性を持つあらゆる分野で働きたいという欲求がさらに強まり、あらゆる障がい者差別に立ち向かうべくDRSコーディネーターとしてチャレンジしてみたいと思うようになりました。将来的にはコーディネーターの経験を積んでスキルをさらに高め、他の大学や学校を訪れて自身の経験について議論の場を持ちたいと考えています。彼女は障がいを持つ学生と接している教育者のコミュニティを作りたいと思っています。

渡部真美、桜の木の下で

素晴らしき多様性溢れる学生たち

身体的・精神的障がいや学修方法の違い、機能的障害、もしくは身体的状況で苦しんでいる学生、また苦しむ可能性のある将来の学生に対し、渡部氏は、援助を求めてもいい、それは弱さを意味するものではない、というメッセージを送っています。TUJのDRSは、能力にさまざまな違いや特性を持つすべての学生への支援に注力しています。学生が平等な教育機会を得られるよう支援する一方で、DRSは学生が自立できるよう後押ししたいとも考えています。これは、TUJのDRSコーディネーターとして、渡部氏が個人的使命と感じていることです。「学生が各自に与えられた条件の中で成功するために、できるだけのことを行います」。

学生ライターの視点

渡部真美さんの取材を担当し、DRSに関するこの原稿を執筆するのは楽しい作業でした。渡部さんの個人的なお話は刺激的で、DRSコーディネーターとしての彼女が担っている役割に強い説得力が加わりました。教育への参加機会を得ることは重要です。すべての学生は、それぞれが持つ固有の能力を尊重されるべきであり、その潜在能力を伸ばすよう奨励されなければなりません。米国本校、TUJ、また、TUJのDRSは、この考えを余すところなく受け継いでいます。私は、渡部さんが受けた教育や人生経験に根差した動機、そして多様性の中で受けた訓練が、TUJの障がい者に前向きに変化していける機会をもたらし、未来に向かって社会的影響のある提案を示すことにつながっていると感じています。


文、写真: ケイリ・ハミルトン-モウレイラ
TUJコミュニケーション学科3年生。執筆やアルバイト以外の時間には、アメリカのトーク番組の再放送を見たり、夫の肖像画を描いたりしている。(翻訳編集: TUJ広報・マーケティングサポート部)