事の始まりは四半世紀前。現在は、テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)上級准教授のロナルド・カーが、当時ロサンゼルスでABCテレビのスポーツ、ニュース担当をしていた頃、初めての海外渡航を決意したことからでした。初めての海外がなぜ、日本なのか。それは幸運な偶然だったと、彼は言っています。平和部隊に所属する彼の友人がタイに配備され、別の友人はその時すでに数年間、日本で働いていました。書籍の映画化の仮オファーが韓国人映画監督からあったのが決定打でした。「いい話だと思った」と彼は言います。1990年に東京に降り立ち、その3年後にカーはTUJに招かれ初の制作コースで教鞭をとり、メディアに興味のある学生に向けた新たなプログラムを作りました。1995年には、TUJはコミュニケーション学科の新設を発表しました。
20年以上におよぶカーの監督のもとで、プログラムは大きく発展しました。現在では、出版、放送業界から学術研究まであらゆる職種を目指す学生に向けた多様なコースを提供しています。基礎コースではコミュニケーション論の主要概念に触れ、メディアと社会の関係性を議論し、調査、分析技術を磨きます。異文化コミュニケーションとグローバル化された環境に重点が置かれています。
上級クラスでは映画制作、執筆、研究など、学生が望む分野の知識、技能を磨きます。最新の総合的な教育を提供するため、コミュニケーション学科では定期的にコースを新設しています。いちばん新しく追加されたのは楽譜制作と批評的研究のコースです。カーは特別な興味を持った学生に向けて、TUJが米国本校や他大学からの客員教授の受け入れを多く行なっている夏学期の履修を薦めています。
1990年代から、日本最大手の英字新聞ジャパンタイムズはじめ、さまざまなメディアでのインターンシップを行なっています。インターンシップは必修ではありませんが、カーは「最初の就職のようなもの」だと言います。学生はインターンシップでコミュニケーション産業に触れ、職業への見地を広げます。メディア企業は経験のある出願者、特に国際的な経験のある者を求めます。カーは、学生のうちに最低でも1つのインターンシップを行うようにと全学生に促します。
自分自身の道を選ぶ
コミュニケーション学科の学生は現代メディア環境グループと特別学際グループの2つのいずれかを選ぶことができます。
現代メディア環境グループは通信技術と一般社会への影響に焦点をあて、メディアコンテンツの製作やポートフォリオ構築に多くの機会を提供します。学生はジャーナリズム、映画製作、あるいはコミュニケーション理論を専門にできます。どの選択肢も、さまざまなレベルの授業によってサポートされます。3年生のデヴィッド・コーテズさんは新聞雑誌ジャーナリズムの分野で働きたいと考えており、ジャーナリズムの事例研究と自分でコンテンツを創作できる機会が素晴らしいと語っています。「実際に記事を書いて、業界に足を踏み入れてみることができるんです」と彼は言います。ジャーナリズムでの経験を持つ教員や仲間からのフィードバックで、彼の腕は一段と磨かれていきます。
特別学際グループは、特定の興味を持ち、自身の目的達成のために個別の学際的なカリキュラムを求める学生に向いています。実現可能な研究プロジェクトとしてはドキュメンタリー製作、調査報道や学術研究の実施などが含まれますが、決してこれらに限られているわけではありません。
起業シミュレーション
メディア業界でのキャリアにとって、じかに得られる経験以上に大切なものはありません。学生は2年生の必修科目で、実際の製品を開発、宣伝、販売する企業を作ることでそれを学びます。例えば、2016年秋学期のプロジェクトにはTVシリーズ、幼児向けの英語イベント、芸術展示会の管理などがありました。全ての学生企業は、形のある成果を残さなければなりません。TVシリーズグループは試作の脚本を書き予告編を撮影し、英語イベントグループは小さなパーティを開き、芸術展示会グループはTUJの学生の美術作品を展示しました。そして、どの企業にも宣伝用のWebサイトの制作が課せられました。
学生は、将来の雇用者に対して個人の作品や資格を効果的にアピールする方法も学びます。学生はポートフォリオの資料を集め、個人Webサイトを作り、履歴書とカバーレターを用意します。カーは、2年生の講義を利用してオンライン上で専門家としてのプレゼンスを築いておくことを学生に薦めています。それによって就職活動の際に大きな違いが生まれるからです。
TUJ学生映画祭
このプログラムの特筆すべき点のひとつに、TUJ学生映画祭があります。年に一回、学生主催で制作コースの作品を披露するイベントです。映画祭では専攻学科に関係なく全学生、および最近の卒業生からの短編作品の応募を受け入れています。このイベントの運営、プロモーションは准教授カール・ノイベルトの指導による授業の一環です。学生はメディアイベントの運営のしかたを学びます。作品募集、審査、選考、字幕制作(元の音声に応じて英語あるいは日本語、またはその他言語による場合は両方)、宣伝キャンペーンの実施、ゲスト審査員の招待、賞金の確保などすべて学生が行います。
TUJ学生映画祭の企画運営は時間がかかり、困難もつきまといます。しかしその報いとして、経験が得られるのです。学生はチームワークのスキルを磨き、アーティストとのコミュニケーション方法を学び、多様で総合的な映画祭プログラムを作成し、大学職員や学生会と協働します。「これは、現実の縮小版。ここで学生が学ぶ全てのことが、彼らの職業生活に役立ちます」とノイベルトは言います。
「万能ナイフ」の如く
コミュニケーション学科の卒業生は、執筆、演説、分析的思考力、分析調査など、多岐にわたる分野で役に立つ万能のスキルを身につけます。さらに、このプログラムは現代のマルチメディア環境で仕事をするのに不可欠なツールとスキルも学生に提供します。大統領が自らツイートする時代に、重要な強みとなるでしょう。
メディア業界での就職はコミュニケーション学科の進路選択の一つではありますが、それが唯一の選択肢というわけではありません。4年生のジェイソン・ウィリアムズさんは政府系の仕事に応募を考えています。彼は、米海軍での経験とコミュニケーション分野の学位を組み合わせることで、企業での執筆や撮影関連の仕事を得るのにも役立つと確信しています。「私は両方に精通していると思っています」と彼は言います。その他の進路には広告、広報(PR)、危機管理、政治などがありますが、それだけに留まりません。カーによれば、「コミュニケーションスキルはどんな仕事にもきわめて重要です」。
執筆者: オリガ・ガルノヴァ(コミュニケーション学科/アート学科同時専攻)